看護管理塾第3章を終えて
第3章、いかがでしたか。「その時の、あなたの感情は?」という問いに対して、すぐに答えることができましたか。看護師の仕事をしている間は感情を持たないようにしているという方もおられたように思います。
あの後、ファシリテータとボランティアで第3章の反省会をしました。第3章のテーマが「感情の源泉を扱う」であったのに対して、「源泉を扱っていないように感じた」というコメントをもらいました。出された感情に対して、表面的な対応が検討されたに過ぎないという厳しめのコメントです。
「感情の源泉」ということは、例えば、資料に書いた事例で言えば、「なぜ怒りの感情を持つことになったのか」ということです。怒りを露わにした患者の娘に対し、怒りの炎を沈下させるだけの看護ではなく、なぜ怒っているのかを知ることによって、真の看護に近づくということだと考えました。なぜ娘は怒っているのかというその方の物語を知ることからはじめると、その方への看護はもちろんのこと、看護の質改善にもつながっていくのではないでしょうか。
患者と看護師の1対1の対話については、管理者がすべてをモニタリングすることが難しいですが、患者や家族の言動を通して、スタッフの看護実践状況を知ることができるということは、看護管理者にとってありがたいことですから、「クレームは組織の宝である」という意味はそこにあるわけです。当日は議論しませんでしたが、娘の話を聴いた看護管理者は、関わったスタッフナースにどのように話を戻したのでしょうか。患者家族からのクレームがあったということだけを伝えるのではなく、スタッフの感情に思いを寄せながら、その者のやる気につながるようなフィードバックをしたらよいと考えました。看護管理者は、患者・家族の感情の源泉を辿りながら、スタッフの感情の源泉も辿りつつ、看護の意味をつかみ、人材育成と質改善につなげていく、面白い仕事だと言いたいです。
ところで今回は、この状況をカスタマー・ハラスメントであるとして分析したチームはありませんでした。近年の傾向からすると、「顧客からの著しい迷惑行為」がしばしば話題になりますが、この例では「長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム」や「著しく不当な要求」といったカスタマー・ハラスメントの要件には該当していません。しかし、もしかすると「名誉棄損・侮辱・ひどい暴言」と捉えるスタッフもいたかもしれません。看護管理塾の皆様の状況判断では、娘の話を聴いてみるという、客観的・合理的な解決策を導くための行動を選んでおられたので、さすが~と感じました。
当日紹介すべき図書を失念しておりましたので、示しておきます。
理性と感情のバランスを考えることが、困った状況の回復を助けてくれるという話をしましたが、それを「考える知性」と「感じる知性」として説明しているのがダニエル・ゴールマンというアメリカの心理学者です。つまり「頭で理解する力(考える知性)と、心で理解する力(感じる知性)は対立するものではなく、互いに補完的に働くことで、人間として豊かな判断が可能になる」ということのようです。(ダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman)・土屋京子(訳)『EQ こころの知能指数』,講談社+α文庫.)
チームワークの中では、客観的・合理的に状況を判断して対応したところで、収まらない怒りもあることや、自分の感情の源泉を知ることも看護管理者としての仕事を助けてくれるといった話題もあったように思みます。
発表されたチームもそうでないチームも、第3章で学んだこと、感じたことなど、皆様からのメッセージが聴きたいです。良かったら投稿してください。
ひと夏、感情を意識して過ごしてみてはいかがですか。ではまた9月に。